第56回:2月21日(土)15:00から
京大工学部8号館3階南演習室
中田悟(京都大学)
『3自由度以上のハミルトン系における不変多様体を用いた遷移レートの計算』
可積分な1自由度振り子系では、回転運動から振動運動へ、またその逆の状態
遷移は起こり得ない。しかし系の可積分性を崩す摂動(外力)が加わると、状態
遷移が起こり得る。このような遷移レートを一般の多自由度系で計算すること
を目指し、本論文では、振り子と$n$個の調和振動子の結合系に非線形摂動が
加わった系における、振り子の自由度に関する状態遷移を調べる。
系のカオスが十分発達している場合は、Rice-Ramsperger-Kassel-Marcus 理論
や、canonical transition state 理論などの統計的手法により遷移レートを
求めることができる。しかし、カオスが十分発達しておらずエルゴード的でな
い場合には、統計的手法を用いることはできず、力学的手法で遷移レートを求
める必要がある。力学的手法には、lobe dynamicsとtube dynamicsという2つ
の計算法があり、両者とも相空間の断面上の不変多様体に囲まれた領域の体積
から遷移レートの計算を行うが、断面の取り方に違いがある。
lobe dynamicsに従うと、ある調和振動子の位相が一定となる断面を取る。そ
の断面上でlobe と呼ばれる不変多様体に囲まれた領域の体積は、Melnikov 関
数によって計算することができる。しかしながら、lobe dynamicsは 2自由度
という特殊性を利用してるために、一般には3自由度以上の系には適用できな
い。一方tube dynamicsに従うと、振り子の位相が一定の断面を取るため、3自
由度以上の系にも適用できる。しかし、不変多様体に囲まれた領域の体積を
Melnikov関数によって計算することはできない。また、2つの計算法は共に断
面上の不変多様体で囲まれた体積を計算しているものの、両者の関係は知られ
ていない。
そこで本論文では、lobe dynamicsとtube dynamicsの関係を明らかにし、両計
算法の利点を合わせた計算法を提案する。まず2自由度系において、両計算法
の等価性を示す。次に3自由度以上の系において、tube dynamics を経由して
疑似lobe を定義できることを示す。そして、疑似lobeとMelnikov関数を用い
た遷移レートの近似計算法を導出する。最後に、遷移レートの計算結果を、こ
の近似法に基づくものと運動方程式の数値積分によるものとで比較した。近似
計算法は、調和振動子の角周波数が極端に低くなければ、よい近似を与えてい
ることが確認できた。
Last modified: Wed Mar 4 19:40:00 2009