第26回:10月15日(土)15:00から
京大工学部8号館3F南演習室
小路口暁(奈良女子大学)
『統計的反応論の破れと相空間構造の関係』
近年、化学において伝統的な統計的反応論であるRice-Rampsperger-Kassel-Marcus
(RRKM)理論の破れが報告され、理論的にも説明されるようになってきた(例としては
マーカスによる[1])。RRKM理論の破れにはいくつかの原因があるが、我々が重要視
しているのは、RRKM理論の基本的な仮定である反応井戸の状態のエルゴード性が
必ずしも成り立っていないという点である。これは反応レートは反応井戸の状態の
エネルギーだけでは決まらないことを意味し、もっと他の「個性」が反応に寄与
しているということを意味していて、反応制御の観点から見ると興味深い性質である。
我々は、反応井戸の非エルゴード性を共鳴構造で特徴付け、その共鳴構造の量子対応物
を導入することで反応を光制御することを目標としている。
かなりシンプルに作った、反応井戸が疎な共鳴構造を持つ反応系の
おもちゃで、反応井戸からのエスケープレートを調べたところ、
統計的反応論的な軌道と非統計的反応論的軌道が存在し、
共鳴構造(アーノルドウエブ)を用いることで、それらが相空間内において
棲み分けていることがわかったので報告する。
また、非統計的反応論的軌道はべき的自己相関をもっていることがわかったが、
その起源についてはまだ未解決の部分があるので、議論したいと思っています。
[1] Y. Q. Gao and R. A. Marcus"Strange and Unconventional Isotope Effects
in Ozone Formation." Science 293, 259 (2001)
Last modified: Thu Nov 24 15:15:24 2005