第1回:4月24日(木) 15:00
京大工学部8号館3階南演習室
小林泰三(立命館大学)
『金属微粒子に於ける原子拡散』
金属マイクロクラスターの性質に関する実験的そして理論的研究が進められて
いる中で、保田-森(YM)らによって実験的に確かめられた自発的合金化現象
Spontaneous Alloying Phenomenon (SA) がある[YM]。それを受けて理論的研
究が清水、池田、澤田(SIS)によって成され、等エネルギー分子動力学 MD シ
ミュレーションによりSAの基本的な特徴の再現と、マイクロクラスターの動的
性質を解析する手法が開拓された[SIS]。SISの等エネルギーMDによる研究は、
高次元自由度のハミルトン系が持つ普遍的な性質(ハミルトン・ダイナミクス)
を捉える事を主な目的の一つとしている。本研究でもこの姿勢を受け継ぎSAの
特徴がハミルトン・ダイナミクス由来であるのか、それとも外部からの力学的
に相関の無い熱的な揺らぎが支配的であるのかに強い関心を持っている。クラ
スターにおける合金化過程は、溶質原子の拡散過程に他ならないが、クラスター
系内での原子拡散機構の研究は我々の知る限り多くはない。本論文ではクラス
ターでの原子拡散メカニズムを固体中や表面での原子拡散のメカニズムと比較
するという観点からSAについて議論する。
アレニウス的な拡散は温度に敏感なので、熱特性を調べるには温度を制御する
必要がある。またSISはシミュレーションにエネルギー一定のMDを用いている
が、実験では、マイクロクラスターは炭素膜支持基板上に置かれているので熱
浴としての基板効果を取り込む事が望まれる。しかし、クラスターのような境
界面を持つ有限系の温度制御は、バルクでのそれをそのまま用いるとクラスター
が崩壊するなどシミュレーションを長時間安定して行うことが困難になる場合
が有り、本研究では Averaged Kinetic Temperature Controlling Algorithm
(ATCA) と名付けた新しい温度制御法を開発して用いた。
本研究では等温MDシミュレーションを行い以下の二点を明らかにした。一つは、
SAに於ける炭素膜支持基板はマイクロクラスターに対して単に熱の授受をする
だけで、力学的に相関の無い揺らぎは殆んど影響を与えない事である。今一つ
は、SAに於ける拡散現象は金属マイクロクラスターに普遍的な現象であり、表
面での原子の組み換え(表面拡散)とクラスター動径方向の拡散(垂直拡散)の2
つの拡散現象の組み合わせと見倣せる事である。
========== 参考文献 ========
[YM] H. Yasuda, H. Mori, M. Komatsu, K. Takeda, and H. Fujita.
"In situ observation of spontaneous alloying in atom clusters."
{J. Electron Microsc.}, Vol. 41, pp. 267+, 1992.
[SIS] 清水寧, 池田研介, 澤田信一, 里子允敏.
「自発的合金化の解明に向けて」
表面, Vol. 19, pp. 479-493, 1997.]
Y. Shimizu, S. Sawada, and K.S. Ikeda.
"Classical dynamical simulation of spontaneous alloying."
{Eur. Phys. J. D}, Vol.4, pp. 365-372, 1998.
Y. Shimizu, K. S. Ikeda, and S. I. Sawada.
"Spontaneous alloying in binary metal microclusters: A molecular
dynamics study."
{Phys. Rev. B}, Vol. 64, p. 075412, 2001.
[KISS] T. R. Kobayashi, K. S. Ikeda, Y. Shimizu, and S. I. Sawada.
"Isothermal dynamics simulations of spontaneous alloying in a
microcluster"
{Phys. Rev. B}, Vol. 66, p. 245412, 2002
T. R. Kobayashi, K. S. Ikeda, Y. Shimizu, and S. I. Sawada.
"Averaged kinetic temperature controlling algorithm:
Appliation to spontaneous alloying in microclusters"
{J. Chem. Phys}, Vol 118, No. 14, p. 6552, 2003
Last modified: Thu Dec 25 17:59:28 2003