Anosov性を持つ新しいリンケージの構成 力学系の双曲性とは,力学系が定義されている多様体の接束が拡大する部分束 と縮小する部分束に分解されることを意味する.これは軌道の安定性と密接に 関わっており,力学系において重要な概念である.さらにこの双曲性を多様体 全体で持つ連続力学系のクラスをAnosov流という.Anosov流の数学的な重要さ の一方で,現実の物理系でこの性質を持つものを構成することは難しい.Hunt とMacKayは,ロボットアームなどのモデルであるリンケージという物理系の, 特にトリプルリンケージという例についてAnosov性を示した.トリプルリンケー ジはThurstonとWeeksによって紹介された物理系で,$\mathbb{R}^2$上におい て,3つの二重振り子の片方の端点を同一円周上に固定し,他方を3つとも1点 で繋ぎ合わせるという対称的な構造をしている.これは,適切なパラメータに おいて配位空間が$\mathbb{T}^3$に埋め込まれた種数3の閉曲面となる.特に 極限的なパラメータにおいては三重周期極小曲面のSchwarz P曲面となり, Gauss曲率がほとんどいたるところ負となる.負曲率多様体上の測地流が Anosov流になるという事実とAnosov流の構造安定性からリンケージは極限的な パラメータの近傍でAnosov性を持つ.またポテンシャルや摩擦がある場合につ いても,構造安定性からそれらが十分小さければAnosov性を持つ.本研究では, HuntとMacKayが扱ったトリプルリンケージの$\mathbb{R}^3$上へのある種の変 形となっているリンケージを構成した.このリンケージの配位空間が, $\mathbb{T}^4$の2次元部分集合になること,さらに適切なパラメータの値で は2次元部分多様体になることも示した.また,この特徴づけをもとに配位空 間の曲率の具体的な表式を与え,適切なパラメータのもとで配位空間がいたる ところ負の曲率を持つであろうことを数値的に確認した.さらに,この結果を もとにリンケージのAnosov性を確認した.