コロキウム

平面楕円制限3体問題のL1近傍の遷移軌道の存在証明

黒川大雅 氏

2023年11月2日(木) 15時00分

総合研究10号館317号室

平面円制限3体問題(PCR3BP)は, 2天体が互いに円運動をすることを前提にしたモデルだが, 平面楕円制限3体問題(PER3BP)は, PCR3BPを楕円運動の場合に一般化したモデルである. 宇宙探査機の軌道設計の分野などで, 実際の天体の運動の影響を考慮する際に有用なモデルの1つとして知られている.
PCR3BPは自励系であるため, エネルギーが保存する. そのため, L1近傍の遷移軌道の存在の問題は, エネルギー固定条件付き2点境界値問題として解釈でき, さらに, この問題は, Maupertuis汎関数の最小化問題, あるいはLagrange汎関数のtime-freeな最小化問題として定式化できる. そのため, これらの変分問題を解くことで, L1近傍の遷移軌道の存在証明を行うことができる. しかし, PER3BPは, PCR3BPと異なり, 時間に陽に(周期的に)依存するため, エネルギーが保存せず, L1近傍の遷移軌道の存在の問題を, エネルギー固定条件付き2点境界値問題としては解釈できない.
一方で, このような非自励系では, Lagrange汎関数のtime-freeな最小化曲線が, 平均エネルギー固定条件付き2点境界値問題の解を与えることを発見した. また, PER3BPの L1近傍の遷移軌道の存在の問題は, 平均エネルギー条件付き2点境界値問題として自然に解釈できる. そこで, この変分問題を解くことで, PER3BPのL1近傍の遷移軌道が存在するための十分条件を得ることに成功した.
本講演では, まず, 非自励系では一般にMaupertuis汎関数による変分構造が機能しないことを述べ, 次に, 本研究の要である, 非自励系ではLagrange汎関数のtime-freeな最小化曲線が, 平均エネルギー固定条件付き2点境界値問題の解を与えることについて述べる. 最後に, PER3BPのL1近傍の遷移軌道の存在について得られた主結果と, 証明の概略を述べる. また, PER3BPのL1近傍の遷移軌道の存在に関する理論的な先行研究は, 講演者の知る限り, Fitzgerald & Ross (2022)による結果のみである, この結果についても主結果との関係も含めて紹介する.