コロキウム

正値性を持つ離散可積分系とその応用について

小林克樹 氏

2022年1月20日(木) 13時30分

総合研究10号館317号室 / Zoom会議 (ハイブリッド)

離散可積分系とは, 非線形な差分方程式系でありながら, その保存量や厳密解が陽に書き下せるなどの著しい特徴をもつものを指す. そのなかでも, 正値性(時間発展が減算を含まない形でかけること)と呼ばれる性質を持ったものは, 主に次の二つの観点から特別な興味をもたれている: (i) 減算による桁落ちが生じないため, 漸化式を高精度に数値計算できる, (ii) 超離散化とよばれる極限操作で, 可積分なセルオートマトン(箱玉系)を導出できる. 本研究では特に(ii)の点に着目する. 本研究ではまず、基本戸田軌道と呼ばれる可積分系の族を離散化し, 対応する正値な離散可積分系(非自励離散基本戸田軌道と呼ぶ)を得た. 次に, 非自励離散基本戸田軌道の超離散化により新たな可積分セルオートマトンを導出した(イプシロン-BBSと呼ぶ). さらに, イプシロン-BBSのmulti-color拡張(玉の種類を増やした拡張)を導入し, その保存量がSchensted-insertionと呼ばれる組合せ論的アルゴリズムで得られることを示した. 同様の事実は高橋-薩摩の箱玉系においては既知であったが, ここではそれをイプシロン-BBSに拡張した. 最後に, 超離散基本戸田軌道を用いた, 行列の単因子計算アルゴリズムを与えた. 単因子とは, 単項イデアル整域上の行列の基本変形による不変量である. 離散可積分系と固有値・特異値計算法との関係については多くの研究があるが, 超離散可積分系と環上の行列不変量の関係はこれまで知られていなかった.