第91回:5月17日(土)15:00から
京大総合研究8号館
寺田裕氏(京都大学)
『自然振動数分布が異なる複数の結合振動子集団のダイナミクスおよび結合振動子系におけるレプリカ交換Monte Carlo法を用いた結合ネットワークの探索』

同期現象は自然が示す興味深い現象であり,そのような系に関する理論的研究
では,結合振動子系が広く用いられてきた.しかし,結合振動子系の研究には
未解決な問題も多く存在する.例えば,(1)複数のリズムが存在し,それらが相
互作用している系はどのようにふるまうか,(2)同期に最適な結合ネットワーク
に普遍的な結合パターンはあるか,といった問題がある.これらの問題に対し,
一つの解答を与えるために本研究を行った.

(1)に関する研究では,異なる自然振動数分布を持つ複数の結合振動子集団がど
のようなダイナミクスを持つかを調べた.位相縮約における平均化を行う際に,
自然振動数の異なる振動子間の相互作用としては,広く用いられている結合関数
とは異なるタイプの関数が導出される.しかし,このタイプの結合関数に関す
る研究はほとんど行われていない.そこで,本研究ではそのような結合関数を
仮定した複数の結合振動子の集団を考え,それらのダイナミクスを調べた.
その際には,近年の結合振動子系の研究における目覚ましい成果であるOttと
Antonsenによる理論[1]を用いた.今回,単純にOtt-Antonsen ansatzを適用す
ることができないので,特殊な仮定をすることで,適用を試みた.その結果,
クラスター化キメラ状態といった特有の状態が現れることをシミュレーション
により示した.

(2)に関する研究では,Markov連鎖Monte Carlo法を用いて,同期を実現する結
合ネットワークの探索を行った.応用上の理由から,結合強度の総和が最小で
同期現象を起こす結合ネットワークの解を調べることが重要であると考えられ
る.そこで,結合強度の総和をエネルギーと見なすことで,Monte Carlo法を用
いてカノニカル分布のサンプリングを行う定式化を行った.結合振動子系にお
ける結合ネットワークは連続量でかつ高次元のため,レプリカ交換 Monte
Carlo法[2]を用いることで,実際の計算を行うことを可能にした.その結果,
位相同期と振動数同期を起こす結合強度最小の特有の結合パターンが得られた.
また,カノニカル分布の探索を行う際に,エントロピーの計算も行い,
結合ネットワーク解の数密度を調べた.

[1] Edward Ott and Thomas M Antonsen.
Low dimensional behavior of large systems of globally coupled oscillators.
Chaos: An interdisciplinary Journal of Nonlinear Science, 18(3):037113-037113, 2008.
[2] Robert H Swendsen and Jian-Sheng Wang.
Replica monte carlo simulation of spin glasses.
Physical Review Letters, 57(21):2607-2609, 1986.


Last modified: Fri Apr 25 11:59:25 JST 2014