第55回:1月24日(土)15:00から
京大工学部8号館3階南演習室
薮義郎(京都大学)
『Geometric Study of Classical and Quantum Systems with Group Actions』
従来、力学における対称性は長らく研究されてきた。力学系が対称性を有すると
は、系が定義されている空間にある群が作用し、かつ、その群の作用によって力
学系が不変に保たれることを指す。古典力学においては、ハミルトン系のシンプ
レクティック簡約化が対称性を扱うための代表的な理論である。これまでの研究
では、相空間などの幾何学的対象がもつ対称性と、ハミルトニアンなどの力学系
対象がもつ対称性とが一致する場合に焦点があてられていた。しかし、幾何学的
対象と力学的対象とがもつ対称性が必ずしも一致しないが、数理物理学的に重要
な力学が存在する。本研究では、そのような力学を次の2つの視点により分けて、
それぞれの場合を代表する力学を扱う。一つの視点は、系が古典的か量子的かで
ある。もう一つは、幾何学的対象に作用する群が有限次元か無限次元かである。

まず、古典的な描像において、無限次元群が幾何学的対象に作用している場合を
考える。具体的には、シンプレクティック簡約化されたハミルトン系の周期解に
対する変分原理を扱う。幾何学的対象はラグランジュ乗数付きのループ空間であ
り、その空間には無限次元のループ群が作用している。力学的対象としての作用
汎関数を本研究では新たに定義するが、この汎関数はループ群の作用で不変では
ない。したがって、変分原理自体を簡約化することはできない。本研究では、ルー
プ群の作用を用いることで、簡約化された方程式の周期解がこの変分原理により
特徴付けられることを示す。

次に、量子的な描像において対称性群が有限次元である場合として、$1/2$-スピン
(キュビットと呼ぶ)系のエンタングルメントを考える。幾何学的対象は$n$キュビッ
ト系の状態空間であり、その空間にエンタングルメントを不変に保つ対称群とし
て有限次元ユニタリー群$\U(2^{\ell})\otimes\U(2^{m}), (\ell+m=n)$が作用する。
また力学系として、Nuclear Magnetic Resonance (NMR) ハミルトニアンに随伴する
シュレディンガー方程式を考える。しかし、NMRハミルトニアンは群
$\U(2^{\ell})\otimes\U(2^{m})$の作用で不変ではなく、簡約化の方法をシュレディン
ガー方程式の解析に用いることが出来ない。本研究では、従来の用いられてきた
アプローチとは異なる新たな解析方法を示し、エンタングルメントの時間変化を
幾何学的な視点から考察する。

最後に、無限次元の群作用を持つ量子力学系を扱う。具体的には、2次元
トーラス上のアハラノフ・ボーム磁場に置かれた量子力学的な粒子を考える。
ここで、アハラノフ・ボーム磁場とは、有限個の点にのみ磁束が集中しているような
磁場を指す。波動関数は2次元トーラス上の複素直線束の切断と対応し、その切断の
なす空間をこの場合の幾何学的対象である。この複素直線束の切断のなく空間は
無限次元群であるゲージ変換のなす群(ゲージ群)の作用を許容する。この量子力
学系のハミルトニアンはゲージ群の作用で不変であり、正準運動量を保存量とし
て持つ。しかし、正準運動量を保存量として持つにも関わらず、ハミルトニアン
は正準運動量が生成する1-パラメータユニタリ群による対称性を許容しない。
本研究では、このような特徴をもっているアハラノフ・ボーム量子力学系の分類
を行い、さらにハミルトニアンの固有値問題について考察した。

Last modified: Tue Jan 20 10:27:19 2009