長距離相互作用を持つ大自由度ハミルトン系の準定常状態における分岐

大自由度ハミルトン系は長時間経過後には熱平衡状態に緩和すると考えられて
いるが、長距離相互作用が働く大自由度系では準定常状態と呼ばれる非熱平衡
状態に長時間トラップされることがある。また、その時間は粒子数の増大とと
もに長くなることが知られている。よってこの準定常状態を知ることが重要で
ある。長距離相互作用系では、ある粒子は平均場を通してのみほかの粒子と相
互作用すると考えることができるため、自由度無限の極限のときダイナミクス
は1体分布関数と平均場ポテンシャルが相互作用する Vlasov 方程式で表すこ
とができる。周期境界条件を課すことで任意の空間一様状態が Vlasov 方程式
の定常解となる。空間一様定常解は運動量にのみ依存する分布で表され、その
族はパラメータが変化すると不安定化し、空間一様でない定常状態へと移行す
ることがある。安定性が変化するパラメータ点を臨界点と呼ぶ。 Crawford は
空間一様定常状態のまわりで線形化した Vlasov 方程式において、不安定な方
向にのみ着目し、その振幅が従う方程式を導出することにより分岐の解析を行っ
た。その結果、運動量分布関数や、相互作用が引力か斥力かによらず分岐は連
続的であり、臨界点付近のオーダーパラメータの立ち上がりのべきが2になる
ことを理論的に示した。しかし空間一様かつ運動量分布が一山対称な
Waterbag 分布と呼ばれる2値分布のときには、別の解析から引力系では不連続
な分岐が起こることも知られている。この一見矛盾しているように見える状況
に説明を与えることが本論文の目的の一つである。具体的には Crawford の方
法をより詳細に見ることで Waterbag 分布のときには不連続な分岐が起こるこ
とを理論的に示す。さらに興味深いことに運動量分布が Waterbag 分布であっ
ても、二山対称で相互作用が斥力であれば連続な分岐が起こることも示す。
Waterbag は二値関数という非解析的な関数であるので、解析的な関数に対す
る我々の手法の有用性を検証するためLorentz 分布の積となる運動量分布につ
いて調べた。この場合は Crawford の結果通り臨界点近傍におけるオーダーパ
ラメータの立ち上がりのべきは2であるが、臨界点から離れるとべき2よりも成
長が抑えられることを定性的に予言できた。

Last modified: Thu Feb 28 11:43:35 JST 2019