平面回転子系における緩和時間の相互作用ネットワーク依存性

平面にある単位円上を動く粒子を平面回転子と呼ぶ。全ての平面回転子が他の
全ての平面回転子と等しく相互作用するハミルトニアン平均場モデルでは、初
期状態から熱平衡状態に到達する間に、寿命が粒子数に応じて長くなる準定常
状態と呼ばれる状態にしばしば滞在する。このため緩和時間は粒子数の増大と
ともに長くなり、観測の時間スケールでは準定常状態しか現れない系も存在す
る。しかし全結合ネットワークを持つハミルトニアン平均場モデルから相互作
用の数を減少させたときに準定常状態が存在するか否かは自明ではない。ハミ
ルトニアン平均場モデルでは、準定常状態が存在するために外力に対する応答
についての臨界指数が平衡統計力学の予測と異なるという新奇な現象も報告さ
れており、準定常状態の存在や緩和時間の粒子数依存性を確かめることは重要
な問題である。全結合以外のネットワークを持つモデルでも準定常状態が存在
すれば、ハミルトニアン平均場モデルにおける上記の知見をより実際的なモデ
ルに対しても応用する可能性が拡がる。本研究では全結合から結合の数を減ら
していき、緩和時間の相互作用ネットワーク依存性を調べる。そのために粒子
数を N とし一粒子当たりの相互作用粒子数がO(N), O(N^{γ-1}) (1<γ<2),
O(N^0) となる相互作用ネットワークを考える。ハミルトニアン平均場モデルの
一粒子当たりの相互作用粒子数が N なので O(N) のネットワークでは O(N)を
維持したまま比例係数を変化させた。その結果全結合でなくとも準定常状態は
存在する事が分かった。 O(N^{γ-1})のネットワークでは、先行研究ではランダ
ムなネットワークにおける緩和時間の粒子数依存性と、その γ の依存性が報
告されている。また、ランダム性を持つネットワークでは γ に依らず相転移
が発生するがランダム性のない規則的なネットワークでは γ>1.5 では相転
移が発生し、 γ < 1.5 では相転移が発生しないことも報告されている。そこ
で規則的なネットワークを考え、ネットワークのランダム性、相転移、および
緩和時間の粒子数依存性の関係を調べた。 O(N^0) のネットワークでは相互作
用する粒子のペア数は少ないがネットワークにランダム性が入るとハミルトニ
アン平均場モデルと同じ相転移を起こす事が知られている。そのためダイナミ
クスの観点からも準定常状態の存在という共通性が現れるか調べたが、準定常
状態は存在しない事が分かった。上記の観測により緩和時間の粒子数依存性の
発現にはネットワークのランダム性や相転移の有無よりも結合の疎密が重要で
あることが分かった。


Last modified: Mon Apr 4 13:09:28 JST 2016