蔵本モデルにおける自然振動数分布の対称性と多峰性

蔵本モデルは集団同期現象を記述することができるモデルで、自然振動数と平
均場結合を持つ振動子たちで構成され、同期の程度は秩序変数によって表され
る。自然振動数分布が対称性と一峰性をもつとき、十分時間が経過した状態で
は、結合強度を大きくしていくと安定であった非同期状態が不安定化する閾値
が現れ、部分的な秩序状態へと分岐する。この場合、秩序変数は結合強度に対
して連続的に変化する。また対称性と二峰性を持つ場合は、安定性の閾値で秩
序変数がゼロから有限値に不連続的に変化する例が報告されている。しかし、
自然振動数分布が非対称性を持つ場合については、一峰性と二峰性の有無に関
わらずあまり多くのことが分かっていない。本報告書では、自然振動数分布の
対称性と多峰性を系統的に考えるため、二つのローレンツ分布の積で表される
分布関数を導入する。この関数は二つのパラメータを持ち、パラメータの値に
よって対称性と多峰性が変化する。この自然振動数分布の族を用いて、非対称
なときにも二峰性は不連続点を発生させるか、また不連続点がある時には安定
性の閾値で不連続となるか、を調べる。

安定性の閾値を求めるため、粒子数無限の極限をとり、連続の方程式を考える。
特に非同期状態は定常であることを確認し、非同期状態の線形安定性解析を行
う。安定性の閾値を与える一般的な表式を導出し、求めた閾値の近くでN 体数
値シミュレーションを行う。最初に自然振動数分布が対称性を持つときは従来
の結果が再現されることを確認する。次に自然振動数分布が非対称性と一峰性
をもつときは秩序変数が連続的に変化することを観測する。最後に非対称性と
二峰性をもつときは、非対称性が小さいときは秩序変数は不連続的に変化する
が、大きいときは連続となることを示す。さらに安定性の閾値で不連続となら
ないこと、秩序変数はゼロからではなく有限値から有限値へ不連続的に変化す
ることを報告する。

Last modified: Mon Mar 7 18:55:22 JST 2016