ハミルトン平均場モデルにおける緩和時間の粒子数依存性


長距離相互作用が働くハミルトン系は、初期状態から出発し、準定常状態とよ
ばれ る熱平衡状態とは異なった状態に長時間滞在したのち、最終的に熱平衡状
態に落ち着 くという緩和過程をしばしばたどる。理論的に予想されるように、
緩和時間は系の粒 子数 N が大きくなるほど長くなる。また、初期状態に依存
して滞在する準定常状態が 異なり、その結果緩和時間も異なる。

長距離相互作用系の一つであり強磁性体のモデルでもあるハミルトン平均場モ
デル における緩和時間の粒子数依存性は、これまでにいくつか報告されている。
それらの研究によると、熱平衡状態が秩序的になるエネルギー帯域においては、
秩序的な準定常状態にのみ滞在する場合の緩和時間は O(N) であり、無秩序的
な準定常状態にも滞在する場合は O(N^1.7) であると示唆されている。これら
の研究結果から、どのような準定常状態に滞在するかが、緩和時間の粒子数依
存性を大きく左右すると推察され る。しかし、初期状態に対する依存性を見る
ための系統的な計算はなされていないため、得られた指数の一般性については
不明である。また、指数 1.7 の由来もわかっていない。

先行研究で使われている初期状態は、二つのパラメータによって特徴づけられ
るが、 ある限られたパラメータ値のみ調べられていた。そこで本研究では、二
つのパラメータを系統的に変化させて、緩和時間の粒子数依存性を数値計算に
よって調べた。その 結果、秩序的な準定常状態にのみ滞在する場合の緩和時間
は O(N) であり、無秩序的な準定常状態にも滞在する場合は O(N) よりは長い
が O(N^1.7) とは異なる依存性を示す初期状態もあることがわかった。後者で
得られる非自明な指数の由来を調べるため、緩和過程を無秩序的な準定常状態
に滞在する第一段階と、無秩序的な準定常状態から離れて秩序的な熱平衡状態
に向かう第二段階に分けて解析した。それぞれの段階にかかる時間を調べたと
ころ、第一段階は O(N^2) の時間がかかり、第二段階は O(N) の時間がかかる
ことがわかった。非自明な 1.7 という指数は、異なる粒子数依存性をもつ二段
階の過程から緩和過程がなることと、計算量の制限から十分大きな N を取 れ
なかったことによる過渡的な指数と説明できる。それゆえ、数値実験の結果か
ら N が大きくなるにつれて第一段階の状態の継続時間が長くなり、緩和時間の
粒子数依存性は O(N^2) となると予想される。