モノポール場における荷電粒子の古典論的散乱問題

2体が十分離れているときはほとんど相互作用を及ぼさないような系において, 無限の過去には無限に離れていた2体が次第に近づいて,再び無限に離れてい くような運動を散乱という.散乱問題の中でもRutherford散乱は古典論,量子 論共に古くから研究されてきた.%Rutherford散乱とは,Rutherfordが原子に よる$\alpha$粒子の散乱実験は原子の中心に正電荷を持つ原子核があることが 突き止められたことから,%そのように呼ばれている.Rutherford散乱は逆2乗 則に従うCoulomb斥力を及ぼしあう2つの荷電粒子系において,一方の粒子を標 的として固定し,他方の粒子を遠方から入射させたときの運動のことをいい, とくに一定速度の粒子ビームとして入射した場合の散乱粒子の角度分布が実験 で測られる.GeigerとMarsdenが原子に$\alpha$粒子をぶつけて散乱された $\alpha$粒子の角度分布を測る実験を行った際,原子の中心に正電荷をもつ原 子核があると解釈すれば,その測定結果を説明できることをRutherfordが示し たことからそのように呼ばれている.Rutherford散乱と同様に,入射させる粒 子は荷電粒子であるが,固定された標的が荷電粒子ではなくモノポールである ときの散乱問題も,微分散乱断面積については古典系・量子系共に研究されて いる. 本研究では,多数の入射粒子の平行ビームを標的粒子に照射したときに,散乱 された粒子が侵入できない領域を影領域と呼んで,その幾何学的性質を調べる. Rutherford散乱の場合は,影領域の境界面は回転放物面になることが知られて いる.本研究ではモノポール場による荷電粒子ビームの散乱で形成される影領 域の幾何学的形状を調べる.そのことによって,モノポール場の力学系の大域 的な幾何学的性質を明らかにすることが目的である.そのためにはモノポール 場における荷電粒子の運動を厳密に解き,解軌道族を特徴づける衝突径数と呼 ばれるパラメータで表し,曲線族の包絡面として影領域の境界面を求めればよ い.また解軌道族の大域的性質を調べる方法としてHamilton-Jacobi方程式を 解いた.主な結果としては,入射粒子の平行ビームの曲線族を導き,その曲線 族を数値計算によって描くことでその包絡面の概形を得た.