シュバルツシルト時空におけるテスト粒子の運動に対する陽的シンプレクティックインテグレータ

シンプレクティックインテグレータとは,シンプレクティック形式を厳密に保 存するハミルトン方程式の数値積分アルゴリズムである.ハミルトン方程式を 常微分方程式の代表例であるルンゲ=クッタ法で数値積分すると,保存すべき エネルギーが単調に増加あるいは減少するのに対し,シンプレクティックイン テグレータを用いると,エネルギーは振動的な振る舞いを見せるものの一定の 誤差の中におさまる.このような理由によりハミルトン方程式の数値積分には シンプレクティックインテグレータを用いることが望ましい. シンプレクティックインテグレータは陽的なアルゴリズムと陰的なアルゴリズ ムに分類される.陽的なアルゴリズムは陰的なアルゴリズムに比べて計算量の 少なさや実装の容易さの観点から優れている.本報告では,陽的なアルゴリズ ムの一つであるハミルトンベクトル場の生成する1径数変換をもとに構成され るアルゴリズムを用いる. これまでに,共役変数の組を同時に含まない関数とそれらの和によって表され る関数に付随するハミルトンベクトル場に対しては,常に陽的なシンプレクティッ クインテグレータを構成できることが示されてきた.一部の共役変数の組を同 時に含む関数に付随するハミルトンベクトル場に対しては Chin による研究が あるが,シンプレクティックインテグレータを構成できる関数形の制限が強く, 物理的な系への適用例が示されていないため実用性が不明瞭であった. 本報告では Chin によって考案されたシンプレクティックインテグレータが, シュバルツシルト時空におけるテスト粒子の運動に適用できることを示す.こ の系のハミルトニアンは共役変数の組が同時に現れる項を含むが,この項を Chin のインテグレータによって処理することで系の陽的なシンプレクティッ クインテグレータを構成する.さらに構成されたインテグレータを用いて数値 計算を行った結果も示す.