捻りを加えたKane-Scherモデルのポート・ハミルトン形式での制御

ある高さから仰向けに落とされた猫は, 全角運動量が0という条件のもとで宙 返りを行っている. この猫の宙返りのモデルとしてKane-Scherモデルがあ る. これは2つの同形な円柱が対称軸で結合以外の拘束を受けないように結合 された系に, 2つの円柱が同期運動をするように拘束条件を付加したモデルで ある. しかしこの系では実際の猫が宙返りの際に行っているような捻りのある 運動は生じない. そこで本研究ではKane-Scherモデルの, 2つの円柱が同期運 動するという拘束条件を取りはらって, 捻りのある運動を生じるように拡張し たKane-Scherモデルを用い, この系にポート・ハミルトン形式による具体的な 制御を与え, 宙返りを成功させる. 捻りを加えたKane-Scherモデルの配位空間$X_0$は$SO(3)\times SO(3)$と微分 同相で, $SO(3)$を構造群とする主ファイバー束の構造を持つ. 多粒子系の議 論をもとにして, $X_0$に計量, 全角運動量, 慣性テンソル,接続などの物理量 が定義される. 接続により$X_0$の各点における接空間をファイバーの接空間 (回転ベクトル空間)とその直交補空間(振動ベクトル空間)に分解でき, それに 適合するように$X_0$の標構場, 余標構場を定義することができる. この余標 構場に関して計量を記述することで, ラグランジアンを簡単な形で導くことが できる. ポート・ハミルトン形式はハミルトン系に対する制御であるため, 得 られたラグランジアンからハミルトニアンを導出し, ハミルトン形式の微分方 程式を導く. ポート・ハミルトン形式では, ハミルトニアンに目標値で最小値0をとるポテ ンシャルを加えた新たなハミルトニアンがリヤプノフ関数となり, 系を安定化 することができ, 新しいハミルトニアンにより自然に制御則が決まる. しか し, 全角運動量0の下での捻りを加えたKane-Scherモデルのポート・ハミルト ン形式による制御では, 剛体系の形状は制御できるが, 姿勢を直接制御するこ とはできない. ところが全角運動量0の拘束条件の方程式の解として形状変数 の初期値と初期運動量をうまく選ぶことで目標の宙返りを実現させることがで きる. また制御入力の種類を増やし, 姿勢の変数にも入力を加えることでより 広範囲に宙返りを実現させた. 最後に系のパラメータの変化に対して全角運動 量0の下での宙返りのしやすさを調べたところ, この制御では猫の体が柔らか いほど, また猫の体が太っているほど宙返りが起こりやすいことが分かった.