平面多体力学系の簡約化と相対的平衡

平面n体問題において,すべての質点がお互いの相対位置を変えずに質量中心のまわり を回り続けるとき,その解のことを相対的平衡と呼ぶ.1760年頃,Eulerは円制限3体問題 の解として,このような相対的平衡(Eulerの直線解)を最初に発見した.1772年には,Lagrange がEulerの直線解は一般の3体問題でも成り立つことを示し,さらに正3角形の各頂点に質 点を配置して得られる解も相対的平衡(Lagrangeの正3角形解)であることを示した.その 後の研究で,任意のnについて正n角形の各頂点に質点を配置した正n角形解なども相対的 平衡であることが分かったが,実は一般の相対的平衡について知られていることは少なく, nが5以上になると,相対的平衡の個数(拡大縮小や回転で移りあうものは同一視して数える )が有限かどうかさえ分かっていない. 一方,力学系に対称性があるとそれに対応した保存量が存在する,そして,それによって系 の自由度を減らすことができ,これを力学系の簡約化という.簡約化を行うことで一般に力 学系の解析が簡単になる.簡約化の理論についての研究も,18世紀後半にEulerやLagrange らによって始められ,それ以来現在もなお活発に研究が進められている. 本研究では,この力学系の簡約化の理論を用いて,相対的平衡の持つ性質を明らかにする. 平面n体問題で扱う系には回転対称性があるので,Noetherの定理から系の全角運動量は保 存されることが分かる.この保存量を用いて力学系の簡約化を行うと,その定義から,相対 的平衡が簡約化された相空間上で平衡点になることは明らかである.今回は,n=3の場合に 限り,相対的平衡が簡約化された相空間上で平衡点になることを計算で確認し,その平衡点 まわりでの線形化方程式を考えることで平衡点の安定性解析を行った.その結果,Lagrange の正3角形解とEulerの直線解が共に不安定であることや,相対的平衡解の線形化方程式に 現れる回転の自由度に対応する固有値0が簡約化系には現れないことが分かった.そして, 線形化で得られる固有値に対する固有ベクトルを初期値とする解の位置成分を,簡約化する 前の配位空間に戻すことで,その固有ベクトル(を初期値とする解)の幾何学的意味を明らか にした.さらに,平面n体問題の解が相対的平衡であるための必要十分条件も導出した.