Bell-Clauser-Horne-Shimony-Holt不等式の拡張と隠れた変数モデルの存在問題

量子力学の創設時から,量子力学の解釈に関して様々な疑問が提起されてきた. いろいろなパラドクスの形で問題を提起し,量子力学の欠陥を指摘しようという試みもあったし, 量子力学に替わる理論を立てて,そこから量子力学と対等な結果を演繹しようとする試みもあった. 特に,量子論の対抗理論として隠れた変数理論(hidden variable theory)と呼ばれる理論が研究されている. Bell, Clauser, Horne, Shimony, Holt (BCHSH)は隠れた変数理論に基づいて,ある物理量の期待値が 満たすべき不等式を導いた.しかし,量子論はこの不等式よりも広い範囲の期待値を予測する. したがってこの不等式は「隠れた変数理論は間違っており,量子論が正しい」ことを判定しうるテストを提供する. そして,これを実証するための実験が何度も行われ,実際に量子論が正しいことが確認されている. しかし,BCHSH不等式では「隠れた変数理論が間違っていて,量子論が正しい」ことは検証できても, 「隠れた変数理論が正しくて,量子論が間違っている」可能性は初めから排除されている. その意味で量子論と隠れた変数理論の公平なテストとは言い難い.さらに,理論的に示されたことは, 隠れた変数理論が正しいならばある不等式を満たすはずだということであり,不等式を満たすならば 隠れた変数モデルが存在するということは示されていない.そこで本研究ではBCHSH不等式を満たすような 隠れた変数モデルが存在するための条件を調べた.その結果,隠れた変数モデルの存在の十分条件を見出し, モデルを具体的に構成した.また「隠れた変数理論が正しくて,量子論が間違っている」可能性を 検証しうるテストを考案した.