ランダウ-ドゥ ジャン自由エネルギーを用いた液晶相転移の解析

液晶相転移を説明する現象論として,ランダウ-ドゥ ジャン理論がある.自由
エネルギーは,温度やその他のマクロ物理量の関数であり,温度一定の条件の
下での熱平衡相では自由エネルギーは最小値をとる.温度が変われば,自由エ
ネルギーを最小化するマクロ物理量の値も変わり,ときとして不連続な変化を
示すのが相転移である.ランダウ-ドゥ ジャン理論は,系の対称性を仮定し,
秩序パラメータと呼ばれるマクロ物理量を変数とする対称性を持った多項式で
自由エネルギーを定義して,熱平衡相を求め,多項式の係数の変動に伴う相転
移を論ずるものである.ランダウ-ドゥ ジャン理論を用いた従来の研究では,
分子はただ1つのテンソル物理量を持つとして,自由エネルギーをただ1つのテ
ンソル秩序パラメータの関数としていた.

本研究ではランダウ-ドゥ ジャン理論を拡張し,分子が複数のテンソル物理量
を持っている場合に対して,自由エネルギーを定義して液晶相転移現象の記述
を試みる.ただし,自由エネルギーを複数のマクロ物理量の関数として定義す
る際,これらのマクロ物理量が独立変数であるか否かが問題となる.

幾何的秩序パラメータは,分子の持つ複数のテンソル物理量と,それらがマク
ロに発現するマクロ物理量とを関係付けるものである.本研究ではこの幾何的
秩序パラメータを用いて,複数のマクロ物理量の独立性の条件を考察する.そ
の結果,D2h対称な系では2つまでマクロ物理量を独立にとることができ,系に
対称性を仮定しない場合はマクロ物理量は5つまで独立にとれることが分かった.
また,独立性が保たれないほど多くのマクロ物理量がある場合は,幾何的秩序
パラメータを独立変数として選べばよいことを明らかにした.

次いで,実際に2つのテンソル物理量で特徴付けられるD2h対称な分子系に対し,
拡張されたランダウ-ドゥ ジャン理論を適用して自由エネルギーの解析から液
晶の相図を得た.これにより,テンソル量の3次相互作用がないときに,2軸的
ネマチック相が出現することが分かった.また,2種のテンソル量の間に相互
作用があると,同種のネマチック相の中でも物理量の不連続変化が起こり得る
ことも分かった.