ハミルトン形式での繰り込み群方程式

微小なパラメータを含む常微分方程式において,解が微小パラメータのベキ級数に展開できるとして各オーダーごとに対応する微分方程式
を解いて解を求める方法は,素朴な摂動法と呼ばれる.しかし,この方法により求めた摂動解は,絶対値が時間と共に大きくなる永年項を
含むことがあり,長時間領域では摂動法が破綻する.そこで,永年項を消去するために様々な特異摂動法が提案されてきた.本報告書では
,そうした特異摂動法のうち,繰り込み群の方法と呼ばれるものについて考察する.繰り込み群の方法にはいくつかの流儀があるが,本報
告書では次のような方法を用いる.まず考えたい常微分方程式の素朴な摂動解に現れる積分定数を時間に依存する変数であると見なし,永
年項は積分定数のテイラー展開によって現れる項だと解釈する.この解釈により,積分定数が満たすべき微分方程式が得られる.永年項を
積分定数の時間発展に繰り込んだことになっているため,積分定数が従う方程式を繰り込み群方程式と呼ぶ.

従来の繰り込み法では,以下に述べる2つの問題がある.まず,微小パラメータのオーダーごとに任意の積分定数が発生するため,繰り込
み群方程式が一意に定まらないという不定性がある.次に,自励ハミルトン系においては,解が長時間エネルギーを一定に保つように繰り
込み群方程式がハミルトン系であることが望ましいが,定義の仕方によってはハミルトン系にならない繰り込み群方程式もある.これらの
問題の解決を目指し,本研究では新たな繰り込み法を提案し,この方法のもとで繰り込み群方程式がハミルトン系となるか否かを調べ,以
下の結果を得た:i)全ての永年項を消去する繰り込み群方程式が,不定性を残すことなく自然に導ける.ii)1自由度の調和振動子に摂動ポ
テンシャルが加わったとき,繰り込み群方程式微小パラメータの2次のオーダーまでハミルトン系である.iii)多自由度の調和振動子系に
ポテンシャルとは限らない一般的な摂動が加わったとき,繰り込み群方程式は微小パラメータの1次のオーダーまでハミルトン系である.
結果ii)とiii)に対しては,繰り込み群の方法と,正準変換摂動論と呼ばれる特異摂動論との比較も行った.