エノン-ハイレス系の振動数比変化に依存するカオス軌道の頻度

可積分系に摂動を加えたハミルトン系を扱う理論の1つに
Kolmogorov-Arnold-Moser(KAM)定理がある。この定理は、可積分部分で決まる
振動数が共鳴条件を満たしていなければ、摂動が加わっても解軌道はカオス軌
道にならずにレギュラー軌道であり続けることを主張している。しかしKAM定
理は可積分部分に非退化条件を要求するので、非退化条件が満たされないよう
な可積分系の摂動系に対しては、カオス軌道が発生しやすいか否かを判定でき
ない。そこで本論文では非退化条件を満たさない調和振動子系の摂動系を数値
計算により研究した。


本論文では、2自由度調和振動子系に摂動を加えたエノン-ハイレス系を変形さ
せた系を考察する。エノン-ハイレス系では調和振動子の振動数比が1であるが、
ここではこの振動数比を$\omega$として変化させる。この系では$\omega$が有
理数であればどんな初期値を選んでも可積分部分で決まる振動数は共鳴条件を
満たし、無理数であれば共鳴条件を満たさないという性質がある。この時にカ
オス軌道の発生のしやすさに$\omega$への依存性があるのかを調べたい。その
指標として各$\omega$でカオス軌道の割合がある閾値を越えるためにどのくら
いの摂動が必要であるかを調べていった。

結果として、$\omega$が1と2の場合にのみ他の$\omega$に比べて小さな摂動で
カオス軌道の割合が閾値を越えることが分かり、KAM定理が適用できる系での
結果とは異なることが分かった。また、$\omega$が2よりも大きくなるにつれ
て、カオス軌道が発生しにくくなることが分かった。この2点に関して、摂動
法とJeans conjectureを用いて議論した。