重力シートモデルにおけるLynden-Bell統計の有効性

大自由度ハミルトン系は十分な時間が経つと熱平衡状態に落ち着くことが知ら
れているが、長距離相互作用を持つ系は熱平衡に落ち着く前に、しばしば準定
常状態と呼ばれる状態に捕らえられる。Lynden-Bellは1967年、この準定常状
態において1体相空間での体積保存を考慮にいれたエントロピーを定義し、こ
のエントロピーを最大にするように決めた1体分布関数がフェルミ分布関数に
従うことを予想した。

この予想がHamiltonian mean-field(HMF)モデルにおいて有効であることを
A.Anton-iazziらは数値計算により実証した。それに対して、重力シートモデ
ルでは、数値計算で得られた分布関数は理論値と一致しないことが
T.Yamashiroらの論文で報告されている。しかし、T.Yamashiroらの論文の数値
計算では粒子数やサンプル数が少ないので滑らかな分布関数が得られなかった
と考えられる。そこで、粒子数やサンプル数を増やし重力シートモデルの再実
験を行い、Lynden-Bell統計の有効性を検討するのが本論文の主な目的である。

重力シートモデルの正準運動方程式を数値的に解くことによって準定常状態に
おける分布関数を求めた後、理論曲線と比較した。その結果、ある初期状態に
対しては数値計算で得られた分布関数と理論曲線はほぼ一致することがわかっ
た。つまり、重力シートモデルにおけるLynden-Bell統計の有効性が確かめら
れた。