一般化リーマン楕円体のゲージ理論

Riemann 楕円体(Riemann ellipsoid)とは楕円体領域内に分布する古典的等密
度流体で、運動が重心を原点とする Descartes 座標に線型に依存するものを
いう。この概念は1860年に Dirichlet 及び Riemann によって定式化されたも
のであるが、近年では Lebvitz および Chandrasekhar による天体物理学やプ
ラズマ物理学への応用で知られている。また、物理的解釈の変更により、高速
回転する原子核の記述にもこの理論は用いられる。

この理論は Rosensteel によりゲージ理論の形に定式化された。即ち、特異値
分解の手法を用いれば Riemann 楕円体を流体とみたときの内部運動の対象性
によりその力学系を簡約化することができるというものである。しかしその定
式化は3次元の場合に限定されており、また具体的な座標系に依存するもので
あった。

本稿においてはこれを、より数学的に簡潔な形に再定式化し、次元や座標系に
依存しない議論を試みた。まず、3次元の場合の Riemann 楕円体の理論を 
Rosensteel およびFass\'o の記述に従って整理し、その物理的な性質を述べ
た後、剛体の幾何学的力学(geometric mechanics)の方法を述べ、これらを結
合させることによって Riemann 楕円体の Lagrange 力学の次元に依存しない
記述を与え、角運動量及び循環が保存することを示した。次に、系全体及び内
部運動の回転を、配位空間への SO(n) のそれぞれ左右からの作用として理解
できることを示した後、配位空間はそれぞれ左あるいは右からSO(n) が構造群
として作用する自明な主バンドルを構成することを示した。さらに、これら2
種類の主バンドルに対して、角運動量および循環が恒等的に零である運動を水
平とするような接続をそれぞれ導入し、この接続によって与えられる水平部分
空間と垂直部分空間はそれぞれ、運動エネルギーによって決まる Riemann 計
量に関して直交すること、即ち運動エネルギーは無限小回転と水平運動の両成
分に分けられることを示した。そして、左右の SO(n) 作用を同時に考えたと
きの水平運動は慣性主軸の伸縮になることも示した。最後に、こうして得られ
た新しい定式化は、Rosenstell が既に与えた3次元の場合の自然な拡張である
ことも確かめた。