非ホロノミックな剛体系の力学

ある高さから仰向けに落とされたねこは、全角運動量が0という拘束条件のも
とで宙返りを行っている。つまり、各瞬間では回転しないという拘束条件のも
とで運動し、結果として半回転を実現している。ねこのモデルとして、2つの
同形の軸対称な円柱が対称軸の交わる点でつながっている剛体系に、折り曲げ
運動と前後同期回転運動のみが許容されるように条件を加えたKane-Scher
modelに関する研究はすでに行われているが、実際のねこがやっているような
「ねじる」運動はこのモデルでは扱えない。

そこで本論文では、円柱が前後独立に回転するように、同期回転の拘束条件を
取り払ったTwisted Kane-Scher modelを考案し、これを用いてねじりが含まれ
る宙返り運動に関する研究を行い、
(ⅰ)折り曲げと同期回転だけで、ねじり無しの宙返り、
(ⅱ})ねじりと折り曲げのみのときの方向転換運動、
(ⅲ)折り曲げとともに同期回転とねじりを組み合わせた後方宙返り
を計算機上で実現する。

2剛体系のTwisted Kane-Scher modelの配位空間は$SO(3)\times SO(3)$と微分
同相で、$SO(3)$を構造群とする主ファイバー束の構造をもつ。全角運動量が0
という拘束条件のもとで人為的外力を加えるときの運動方程式をラグランジュ
形式で求める。全角運動量が0という拘束条件に適合するような標構場を取る
と、拘束条件を満たす方向のベクトル場同士の括弧積が拘束条件の中で閉じな
いので、この系は非ホロミックな剛体系であることが分かる。また、計算によ
り完全非ホロノームであることが確かめられるので、入力を工夫すれば
$SO(3)\times SO(3)$上で全ての配位をとることができる。この性質を利用し
て、折り曲げ、同期回転、ねじりに関するトルクを制御入力として、様々な運
動を計算機上で実現することができる。特に上述の(ⅰ)、(ⅱ})、(ⅲ)の運動
を実現した。