Contact Processが生成するネットワーク相転移の解析
井上 武

現実社会には、様々な形状のネットワークと、その上で起きる力学(遷移過程)
が存在する.  例えばインターネット上のパケットフローや配電網上の電力配
送、人的ネットワーク上での伝染病の蔓延などである.  この力学を理解する
上で重要なのがネットワーク相転移である.  相転移とは、系のパラメータが
ある条件を満たすか否かでシステムの状態が大きく変化する現象であり、例え
ばパケットフローでは通信可能状態が突然通信不可能状態に変化する様な現象
である.  このネットワーク相転移をうまく説明するミニマルなモデルの一つ
にContact Processというものがある.  Contact Processとは枝で繋がった隣
接二節点間の相互作用過程を表現する数学モデルである.  これまでの研究に
より、Contact Processは一次元ネットワークでは相転移を起こす事が知られ
ているが、複雑なネットワーク上でも相転移を起こすかは自明でない.

そこで本研究では、まず様々なネットワーク上でContact Processを実装し、
相転移が起こるか否かを検証した.  その結果、今回モデルとして取り上げた
二次元ネットワーク、Globally Coupled Network、Small World Network、
Scale Free Network、Cayley Tree Network上で相転移が起きる事が確認でき
た.  %また各ネットワークにおいて相転移が起きる臨界点は、節点数を十分大
きくすればある点に収束する事が判明した.  また、パラメータの臨界値でネッ
トワークモデルの接続次元を定義した所、一つの節点が持つ枝数の平均の大小
と接続次元の大小は必ずしも一致しないものの、Scale Free Networkと
Globally Coupled Networkにおいては、平均枝数は全く異なるにも関わらず接
続次元が等しい事が分かった.

次に相転移が関係する興味深い現象として、インターネットでパケットが詰ま
る事によって長時間かかる通信を取り上げ、インターネットにおけるIPアドレ
スが定める階層構造を表すCayley Tree Network上でパケット通信をモデル化
した.  この時、Contact Processが持つ「詰まりやすさ」の指標パラメータ値
を階層によらず一様にした場合、長時間かかる通信は再現できなかったが、こ
のパラメータ値を上階層に行くに従い増加させた場合、その増加量が中間的な
値をとりかつ最下層におけるパラメータ値が臨界点近辺である時、長時間かか
る通信が再現可能である事が判明した.