タイトル: 量子計算におけるキュトリット 摘要: 量子計算とは,量子力学を動作原理とする新しい計算法であり,2値論理に基 づく従来の計算法では実現し得ない高速計算が可能な問題のいくつかが発見さ れている.量子計算の理論は,通常,キュビットと称される2つのエネルギー 準位をとる粒子モデルを基盤に展開される.しかしながら,量子計算アルゴリ ズムの物理的実現が開始された現在,量子状態制御における優位性への期待か ら2より多いエネルギー準位をとる粒子モデルに関心が集まっている.特に3 つのエネルギー準位をとる粒子モデルはキュトリットと呼ばれる.本報告書で はKlimov, ~S\'{a}nchez-Soto, ~de Guise 及び Bj\"{o}rkの共著論文(2004年) に従い,1キュトリット状態に関する2つの話題をとりあげる.最初に,キュ トリットの幾何学的描像として,キュビットの場合に倣ったポアンカレ球表現 を7次元球面上に構成する.次に,キュトリット状態を表現する3基底状態の 結合係数間の位相の観測について考察する.まず,POVM(Positive Operator Valued Measurement)と呼ばれる観測法に必要な正定値エルミート作用素(POVM 作用素)が満たすべき十分条件を導出する.さらに,量子光学と関係が深いコ ヒーレント状態の密度作用素から導かれる正定値エルミート作用素がPOVM作用 素の一例を与えることを示す.