多準位2粒子系における量子デンスコーディング

情報化社会とも称される現代社会において,通信技術の発展の一翼を担ってきた
のが数理科学としての情報理論である.
従来の情報理論,いわゆる古典情報理論が巨視的な物理的状態で実現される符
号伝送を扱うのに対して,微視的な量子力学的状態を通信媒体として
展開される情報理論を,量子情報理論と呼ぶ.
量子情報理論に基づいた通信手法の一つとして,量子デンスコーディングが知ら
れている.
量子デンスコーディングでは,量子力学系の特徴である非局所性,すなわち局所
的操作が一般に系全体へ波及するという性質を利用することで,その名の通り
古典通信よりも「密な」情報伝送を行える.
本報告書では,Ban達の論文 (2004年) に従って,多準位2粒子系における量子デン
スコーディングの量子通信路容量について考察する.
まず,量子情報理論のテキストの多くに現れる2準位2粒子系における量
子デンスコーディングについて紹介し,古典符号が「密に」伝送される状況を理解す
る.
次に,多準位2粒子系における量子デンスコーディングの考察を行う.
量子通信路容量の評価という目的に適したアプローチとして,量子状態を密度作
用素で記述する方式で量子デンスコーディングを考察する.
通信路容量の評価は,von NeumannエントロピーやHolevo関数の計算により実行
される.
特に,符号化前の状態が任意で通信路に雑音がない場合と,符号化前が完全エン
タングル状態で通信路に雑音を許す場合については,通信
路容量に対する陽な評価が得られた.
通信路容量と多準位2粒子系のvon Neumann相互情報量との関係についても考察
し,
符号化前が完全エンタングル状態で通信路に雑音を許す場合は,
伝送前と伝送直後の量子状態に対するvonNeumann相互情報量が,
通信路容量と等しいという結果が得られた.