独立成分分析とは、いくつかの信号が混信した状態で受信された観測データか
ら未知の信号源の信号を復元する手法の一つであり、従来の主成分分析、因子
分析よりも強力なものである。独立成分分析が適用可能であるためには、信号
源の信号が正規分布に従っているものではないこと、及び信号源の信号が互い
に統計的独立であることが必要である。また、信号を復元する際に、復元した
信号の順番、大きさは問わないとする。独立成分分析の応用例としては、脳の
内部の各所で生じる信号を外部から測定した時に元の信号を特定するとか、あ
るいは移動体通信などで話が混線しているのをそれぞれに分離するとかがあり、
いろいろ応用範囲は広い。

本論文では独立成分分析の様々な手法の中で、非ホロノームアルゴリズムと呼
ばれるものを二つ取り上げ、その理論とシミュレーションの結果を示す。その
一つは甘利の方法であり、これは基本的には最尤法に基づくものであるが、こ
れに「独立成分分析では未知の信号源の信号を復元する際に、信号の大きさは
問わない。」という性質を利用して計算に伴う数値的不安定性をなくしたアル
ゴリズムである。もう一つは阿久澤の方法で、高次の統計量(4次のキュムラン
ト)を利用しているのであるが、やはり上記の「独立成分分析では未知の信号
源の信号を復元する際に、信号の大きさは問わない。」という性質を使ってい
る。この性質を使うことで微分幾何学的に言えば非ホロノーム拘束が生じるこ
とを明らかにする。

さらに、この両方のアルゴリズムを用いてシミュレーションを行った。確率密
度分布を決めてコンピュータでつくり出した信号、及び現実の音の二種類の信
号に対し、それぞれの信号を混合して得られる観測データにこれらのアルゴリ
ズムを適用して、元の信号を復元するシミュレーションを行った。いずれも理
論通りうまく元の信号に分解できることが確認できた。