近年、量子計算が注目を集めている。実験においては、既に数キュビットの量
子計算がNMR(核磁気共鳴)計算機などで実現されている。NMR計算機においては、
量子の状態を制御するのに磁場が用いられている。このような量子状態の制御
には、大きく分けて次の2つの問題がある。まず、「考えうるすべての量子状
態が任意の初期状態から実現可能か?」という大域的可制御性の問題。次に、
デコヒーレンスを避けるという観点から、「任意の時間で実現可能な量子状態
の集合はどのような集合となるか?」という局所的可制御性の問題である。
\par本論文では、磁場中に置かれた$n$個のスピン$\frac{1}{2}$の粒子からな
る多重スピン量子系を考え、スピン量子系をLie群${\rm SU}(2^n)$上の右不変
制御系として定式化し、大域的可制御性と局所的可制御性の両面からこのスピ
ン量子系の可制御性について解析を行った。スピン量子系の大域的可制御性に
ついて、各スピン間の相互作用の有無を表すスピングラフを導入し、グラフの
連結性と可制御性との関連について考察した。そして、制御入力が各スピンの
2方向の回転を制御できるという拘束の下では、対応するスピングラフが連結
となることが、系が大域的に可制御となるための必要十分条件であることを示
した。また、スピン量子系の局所可制御性について、1入力単一スピン量子系
と4入力と6入力の2重スピン量子系の任意の時間で実現可能な状態の集合につ
いて調べた。その結果、1入力単一スピン量子系と6入力2重スピン量子系に関
しては、任意の時間で実現可能な状態の集合が部分Lie群の構造を持つことが
示せた。