電磁気学における Biot-Savart の法則は、与えられた電流分布から、空間全 体における磁束密度の場を求める方法を与えるものである。この法則の数学的 な形式に着目すると、与えられた「電流密度の場」を「磁束密度の場」に写像 する「Biot-Savart 作用素」を考えることができる。 この Biot-Savart 作用素には、結び目理論、流体力学、プラズマ物理などに おいて様々な応用があることが知られているが、これらの応用に際しては Biot-Savart 作用素の数学的性質を詳しく調べることが不可欠であろう。 そのための有力な手段は、Hodge の分解定理によってベクトル場がなす空間を いくつかの部分空間の直和に分けてしまうことである。 本研究では、Canterella, DeTurck, Gluck の論文に従い、この定理を用いて、 Biot-Savart 作用素がある連結コンパクト集合上の、発散がなく境界上では境 界と接するようなベクトル場全体のなす空間において rot の右逆演算となる ことや、Biot-Savart 作用素の核は境界上でポテンシャルが定数となる勾配ベ クトル場全体の空間に一致すること、また Biot-Savart 作用素の像のなす空 間は rot の像のなす空間の真の部分空間になること、さらにはBiot-Savart 作用素は有界対称作用素であって、標準的な$L^2$内積のもとでベクトル場の 空間を完備化するとコンパクト自己共役作用素に自然に拡張されることを示す。