量子計算とは,従来の2値変数(ビット)に基礎をおく計算とは全く異なり,量 子力学的概念で,キュビット(qubit)に基礎をおく計算である.量子計算の実 装には,量子状態の制御という難しい問題が存在するが,少数キュビットの実 装による計算の成功が最近報告されている.本報告書ではRomero,Laverdeお よびArdilaによる論文(2003)にしたがって,核磁気共鳴(NMR)をモデルとする 1-qubit系の最適制御問題を考察する.すなわちBlochベクトルで状態表現する とき,Bloch方程式に従うスピン粒子の状態を磁場によって制御する問題を考 える.量子レベルでの制御問題では外部の熱浴が大きな障害となり,制御は短 時間,少エネルギーで実行されることが望ましい.本報告書では最小化したい コスト汎関数として,磁場のエネルギー,磁場の変化率の2乗積分,およびこ れらの結合の3通りを選んで考察する.いずれの場合も最適軌道はBloch球面上 で始状態から終状態へ至る測地線上を動くことがわかる.量子ゲートのコスト 最小実現への応用も述べる.