近年さかんに研究が行われている量子計算における顕著な成果の一つに, Grover の探索アルゴリズムがある. ランダムに配列された$N$個のデータの中 から$1$個の目的のデータを見つけ出すには, 古典計算では平均$N/2$回の試行 が必要であるが, 量子計算に基づくGroverの探索アルゴリズムではおよそ $\sqrt{N}$回の試行で探索が終了する. 単一データのための Grover の探索ア ルゴリズムの幾何的側面に関する考察も行われている. たとえば, Wadatiと Miyake は, Grover の探索アルゴリズムが生成する$n$-qubit状態の列を, $(n-1)$ 次元複素射影空間に射影して議論している. 本論文では, 単一データ のための Grover の探索アルゴリズムの一般化として, 複数個のデータの組を 配列順序も考慮して探索する量子アルゴリズムを提案し, 数理物理的な視点か ら考察する. 配列順序を考慮した$m$個の$n$-qubitデータの組は, ノルム$1$ の$2^n \times m$複素行列の形で表現され, 提案アルゴリズムは$n$-qubit状 態のHilbert空間${\bf C}^{2^n}$の$m$個の直積${\bf C}^{2^nm}$上のユニタ リ変換として記述される. 探索点列は, Hilbert空間${\bf C}^{2^nm}$内の $S^{2^nm-1}$の測地線上を動くことが示される. 複数データの組全体のなす空 間$S^{2^nm-1}$からは, $m$次密度行列全体のなす空間への射影と, $2^n$次密 度行列全体のなす空間への射影の$2$種類を考えることが出来て, 前者は WadatiとMiyakeによるアプローチの自然な一般化である. いずれの射影を用い た場合でも, 提案アルゴリズムが生成する$S^{2^nm-1}$上の点列の射影は, 探 索の進行とともにvon Neumannエントロピーが最小の状態から最大の状態へと 移動することが示される. また, $2^n$次密度行列のなす空間に射影された点 列は, ある測地線上を動くことが示される.