少数多体系(以下、n体系と表す)の力学の幾何学的理論は Guichardet (1984)に よるn体系の主ファイバー束猫像を契機に、数学面からは主として Iwai 等によ り、物理的な面からは主として Littlejohn 等により推進されてきた。一連の研 究においては、n 体の重心が原点に固定されている n 体重心系において、n 体 の相対的位置関係は回転群の作用の下で不変であるという考えに基き、互いに回 転で移り合う配位を同一視して得られる「形状」空間において力学が展開されて いる。理論の鍵となる概念は、n 体系の配位空間内の主ファイバー束構造に定義 されている接続である。それらの研究は量子論では n 体系の基礎的枠組みに貢 献し、古典論ではいわゆる「ネコの宙返り」の幾何学的猫像を与える。これに対 して、相空間レベルでの「形状」空間を基盤とした n 体系のハミルトン力学は すでに完成されてはいるが、特異配位を含まないものに限られていた。 本論文では、古典 n 体系を、特異配位を考慮した相空間レベルで議論するひな 型として、3体系のポアソン簡約化を試みる。ポアソン力学では、ハミルトン力 学におけるシンプレクティック形式の非退化性を必ずしも要請しないので、特異 集合を含む力学系の研究に適している。3体重心系の相空間をポアソン多様体と 捉え、その上への回転群SO(3) の作用を用いて相空間をポアソン簡約化する。 SO(3)-作用の不変式論を活用することにより、簡約化空間は、R^{14} 内のある 代数曲面で実現される。こうして得られた簡約化空間上には、重心系ポアソン多 様体からの自然なポアソン構造が誘導され、重心系ポアソン多様体のポアソン簡 約化が完成する。得られた簡約化ポアソン多様体には、あるシンプレクティック 葉層構造が存在する。その各葉は重心系相空間の SO(3)-作用によるシンプレク ティック簡約化によって得られる多様体とシンプレクティック同相であることが 示される。この意味で、3体重心系のポアソン簡約化は、3体重心系の相空間の SO(3)-作用によるシンプレクティック簡約化を一挙に実現していることがわかる。 また、従来の多くの研究では n 体系のハミルトン力学の理論の障害となるため に除外されていた特異集合の解析も本研究の枠組みでは容易で、特異集合は R_{+}\times RP^{3} に3体衝突を表す一点を付加したものとなり、これも R^{14} 内の代数曲面として実現できる。