本論文では、自由度2の力学系の配位空間として最も簡単な$\mathrm{R}^2$と、
その上の回転群$SO(2)$の作用とを基礎として、$SO(2)$の対称性をもつ古典及び
量子力学系の簡約化を考察する。
2自由度の古典及び量子力学系は、それぞれ$\mathrm{R}^2$の余接バンドルである
相空間$T^{*}\mathrm{R}^{2}$、2乗可積分関数のなすヒルベルト空間 
$L^2(\mathrm{R}^2)$上で定義される。そして$SO(2)$の作用は、古典系では正準変換
として
$T^*\mathrm{R}^2$上にもちあげられ、量子系では、ユニタリー変換として
$L^2(\mathrm{R}^2)$上で表現される。これらの群作用を用いて、古典及び量子力学
系で簡約化、すなわち自由度の低い力学系への移行が実行される。

一方、$SO(2)$の作用とは可換な特殊線型群$SL(2,\mathrm{R})$の作用は古典系では 
$T^{*}\mathrm{R}^{2}$上に正準変換として、量子系では$L^{2}(\mathrm{R}^{2})$
上に積分変換の形に表されたユニタリー変換としてそれぞれ定義される。$SO(2)$の
作用との可換性により、$SL(2,\mathrm{R})$の作用は、古典及び量子力学系
それぞれの簡約化空間上に正準変換及びユニタリー変換を惹き起す。

古典系における簡約化とは、$T^{*}\mathrm{R}^{2}$内の$SO(2)$に付随する
運動量写像の等位空間を $SO(2)$ の作用に関する同値関係でわって、商空間を構成す
ることであり、この運動量写像とは通常角運動量といわれるもの一般化である。
また量子系における簡約化とは、$L^{2}(\mathrm{R}^{2})$において
$SO(2)$の作用に関する同変関数からなる部分空間を用いて$L^{2}(\mathrm{R}^{2})$
を直和分解することで実現される。ここで$L^{2}(\mathrm{R}^{2})$の同変関数による
直和分解は$L^{2}(\mathrm{R}^{2})$の関数の$SO(2)$の作用に関するフーリエ展開
により得られる。

次にこれらの古典系と量子系での$SL(2,\mathrm{R})$の作用の間の対応をみるために、
本論文では次のような量子化の視点をとる。つまり、相空間上の正準変
換とヒルベルト空間上のユニタリ変換との対応と、この対応から誘導される
無限小正準変換の母
関数と無限小ユニタリ変換つまり自己共役作用素との対応が量子化の規則であるとい
う視点である。通常のSchr\"odingerの量子化の規則もこの考えで捉えることができる。
そして、この考えは、通常のSchr\"odingerの量子化が適用できないような場合で
も有効にはたらく。とくに、簡約化された古典及び量子力学系の間の量子化の規則は、
Schr\"odingerの量子化ではうまく行かないのであるが、上記の考えではうまく行く。
具体的な計算では、$SL(2,\mathrm{R})$を岩沢分解して、各部分群ごとに量子化の規
則を検討し、上記の量子化の理解が有効であることを確かめた。