最近の株価データの実証分析研究によると、株価の変動(増分)の対数いわゆる
log-returnの分布は、オプション価格付け理論でよく知られている
Black-Sholesモデルで扱われるような正規分布ではなく、むしろそれからの乖
離が指摘されてきている。実際、その分布の特徴として、正規分布にはない、
非対称性やすそ野の広さ、いわゆるfat-tailをあげる報告が多く見られる。と
ころで、こうした分布の特徴は、いわゆる安定分布を含む無限分解可能な分布
に見られることであり、さらにその分布がL{\' e}vy過程と対応していること
を考慮すると、株価のlog-returnを L{\' e}vy 過程でモデル化することは自
然であるように思われる。

本報告書では、こうした事実をふまえ、L{\' e}vy 過程の一種であるn点複合
ポアソン過程でlog-return過程を表現した「ジャンプ型株価モデル」について、
以下の事柄を検証する。すなわち、まず、「モーメント法」を利用して、実際
の株価データからモデルに含まれる未知パラメータを確定するための手続きを
確立する。つづいて、比較的単純なジャンプモデルからでも、先に述べた
log-return分布の非対称性、fat-tailが実現できることをシミュレーションを
通じて示す。最後に、最小エントロピー同値マルチンゲール測度と呼ばれる非
完備市場におけるオプション価格づけのための確率測度を利用して、ジャンプ
型モデル上のヨーロピアン・コールオプションの価格付けシミュレーションを
行い、Black-Sholes モデルによる結果との違いを見る。