非線形ハミルトン系における安定平衡点近傍の挙動の解析に,
Birkhoff-Gustavson 標準形近似が有効なことが知られている.
Birkhoff-Gustavson 標準形近似とは,与えられたハミルトン関数を正準変換
によって,(i)安定平衡点における線形化ハミルトン関数(斉2次式)を最低次
とし,(ii)各斉 $s(s\geq 3)$ 次項が今述べた2次項と Poisson 可換となる,
ような形式べき級数に展開して実行される.このべき級数を有限次で打ち切っ
た多項式をハミルトン関数にもつハミルトン系(標準形近似系)と,もとのハミ
ルトン系とは,平衡点近傍で非常に似通った相図をもつことが知られている.
逆に,ある標準形ハミルトン関数に帰着可能なハミルトン関数の族の同定は,
平衡点近傍の相図が似通ったハミルトン系の族の同定を意味する.本論文では,
上記の同定問題を標準形近似の逆問題と呼んで考察した.まず,逆問題を定式
化し,その解法を正準変換の観点から理論的に考察した.解法は,多項式の代
数演算と微分,および積分で構成され,理論的には明解であるが実際には次数
とともに組合せ論的に増大する項数のために実行が困難になる.そこで,理論
的に得られた解法を数式処理プログラムの形式で実現した.例としては,
H\'enon-Heiles 系に対する逆問題を解き,4次多項式をハミルトン関数に持
ち,H\'enon-Heiles 系と標準形を同じくするハミルトン系の族を同定した.
その結果,H\'enon-Heiles 系が可積分な時かつその時に限り,
H\'enon-Heiles 系と標準形を同じくする斉4次ポテンシャルの摂動を受ける
調和振動子系(斉4次摂動系という)が存在し,その斉4次摂動系もまた可積分
であることがわかった.その一般化として,斉3次ポテンシャルの摂動を受け
る調和振動子系(斉3次摂動系という)が可積分かつその時に限り,その斉3次
摂動系と標準形を同じくする斉4次摂動系が存在することが分かった.さらに,
得られた斉4次摂動系も可積分であることが分かった.上記で得た,さまざま
の摂動系の Poincar\'e 断面の比較検討も行った.