Colloquium

微小系における情報処理の熱力学

沙川貴大氏 (京大白眉)

11月04日(金)13:30

情報と熱力学の関係は、マクスウェルのデーモンのパラドックスと関連して古くから知られ、 多くの議論がなされてきた[1]。近年の微小非平衡系を測定・制御する技術の進歩により、 デーモンは思考実験の世界を超えて、理論ばかりでなく実験的にも重要なトピックとなりつつある。
今回のセミナーでは、情報処理プロセスにおける熱力学第二法則に関する我々の理論および 実験の結果をレビューする。 理論的には、我々が非平衡統計力学と量子情報理論に基づいて導出した、 情報処理プロセスに適用可能な形に拡張された熱力学第二法則について議論する[2,3]。 これらの拡張された第二法則から、フィードバック・測定・情報消去といった プロセスに必要なエネルギーコストの原理的な下限が明らかになる。 また、サブミクロンスケールのコロイド粒子に対して室温でフィードバック制御を 行うことにより、フィードバックがない場合よりも多くの自由エネルギーを粒子に 獲得させることに成功した実験について議論する[4]。 これは1929年にSzilardが思考実験で提案したタイプのデーモンのはじめての実現になっている。
さらに、非平衡関係式(Jarzynski等式)の情報処理過程への拡張[5]、 およびその実験的検証[4]についても議論したい。

[1]"Maxwell’s demon 2: Entropy, Classical and Quantum Information, Computing", H. S. Leff and A. F. Rex (eds.), (Princeton University Press, New Jersey, 2003).
[2] T. Sagawa and M. Ueda, Phys. Rev. Lett. 100, 080403 (2008).
[3] T. Sagawa and M. Ueda, Phys. Rev. Lett. 102, 250602 (2009); 106, 189901(E) (2011).
[4] S. Toyabe, TS, M. Ueda, E. Muneyuki, and M. Sano, Nature Physics 6, 988 (2010).
[5] T. Sagawa and M. Ueda, Phys. Rev. Lett. 104, 090602 (2010).