Colloquium
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光子の位置の問題
谷村省吾氏(名古屋大学情報科学研究科)
6月24日(木)13:30
光は、黒体輻射・光電効果・原子の発光吸収スペクトル・レーザー・量子相関光
など、
量子論構築の発端であり、量子力学とともに発展してきた道具でもあり、
最も身近な量子力学的存在でもある。
意外だと思われるだろうが、「光子の位置」という概念は
量子力学的にはきちんと定義されていない。
光子のエネルギーや運動量は量子力学的演算子として定義されているが、
光子の位置にあたる演算子は定義できない、
あるいは無理に定義しても正準交換関係を満たさないのである。
量子力学の教科書の最初の方に光のダブルスリット実験などの説明が載せられて、
「粒子と波動の二重性」といったキーワードが並べられた後、
位置と運動量の正準交換関係が説明される頃には光子の話が途絶えるのは、
そういった事情を反映している。
光子の位置をいかに定義すべきかという問題は古く、Pauliにまでさかのぼる。
決定的な結果は Newton-Wigner-Wightmanの定理で、Poincare群の表現論の立場から
massless かつ spin 1 以上の粒子の位置は定義できないことが証明される。
一方で、我々の日常経験からは、
光には位置という概念が当然のようにあるように見えるし、
光学機器も光の位置という概念を前提にして設計されて
正常に作動しているように見える。
従って、理論の中にも光子の位置にあたる概念が定義されてしかるべきであろう。
私はPOVMのアプローチからこの問題を解決しようとしている
(そして、ほぼ解決できたと思っている)。
そういう話をします。
参考文献:
[1]
T. D. Newton and E. P. Wigner,
"Localized states for elementary systems,"
Rev. Mod. Phys. 21, 400-406 (1949).
[2]
A. S. Wightman,
"On the localizability of quantum mechanical systems,"
Rev. Mod. Phys. 34, 845-872 (1962).
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