Colloquium

摂動MIC-Kepler問題とその等エネルギー軌道空間への簡約化

松本 昇吾

1月28日(金) 13時30分

MIC-Kepler問題はKepler問題にモノポール磁場を付け加えた力学系として定義される. MIC-Kepler問題の等エネルギー軌道空間のトポロジーはエネルギーが負,正,0の場合でそれぞれ異なり, MIC-Kepler問題に対称性を崩さないように摂動を加えると, その摂動は等エネルギー軌道空間にフローを引き起こす.
我々は摂動MIC-Kepler問題を, 直交する一様電磁場中に置かれたMIC-Kepler問題であると定義し, その等エネルギー軌道空間上の力学系を解析する. 一般に, 摂動ハミルトニアンは非摂動項とPoisson可換ではないので, 等エネルギー軌道空間上での解析行うためには摂動ハミルトニアンの標準形を計算し, その結果を用いて等エネルギー軌道空間上の簡約化ハミルトニアンを求める必要がある.
MIC-Kepler 問題はconformal Kepler問題をU(1)作用で簡約化することにより得られることが知られており, conformal Kepler問題と調和振動子との関係から, conformal Kepler問題を導入すると摂動MIC-Kepler問題に対するnormal formの計算が容易になる.
前回のコロキウムでは, 摂動MIC-Kepler問題に対して摂動調和振動子系を定義し, エネルギーが正の場合, 負の場合それぞれ関して, 標準形とその簡約化ハミルトニアンが数式処理ソフトMaximaにより計算できたことを示した. しかし前回の話は摂動調和振動子系の簡約化ハミルトニアンを求めただけであって, 厳密に言えば摂動MIC-Kepler問題に対する簡約化ハミルトニアンを求めたことにはなっていない.
既に行われている摂動水素原子モデルに関する研究では, 時間パラメータを変化させるというテクニックを用いて摂動水素原子モデルに対する簡約化ハミルトニアンを定義できるとしていた. しかし, 今回, 従来使われていたそのようなテクニックを用いることなく, エネルギーが正・負それぞれの場合に関して摂動MIC-Kepler問題の簡約化ハミルトニアンを定義する方法を見つけたのでそれについて解説する.
等エネルギー軌道空間上の力学系は, その上のシンプレクティック2次形式と簡約化ハミルトニアンによって定まる. 等エネルギー軌道空間は, MIC-Kepler問題の対称性群の余随伴軌道とシンプレクティック同相であることが既に示されていることから, 我々は余随伴軌道に付随するKKS-formを用いて, エネルギーが正,負の場合に関して, 等エネルギー軌道空間の力学系を$R6$の4次元部分多様体上の力学系として書き下すことができたのでその結果を紹介する.


参考文献
[1] T. Iwai, A dynamical group SU(2,2) and its use in the MIC-Kepler problem, J. Phys. A: Math. Gen. 26, 609(1993).
[2] R. Cushman, D. L. Rod, Reduction of the semisimple 1:1 resonance, Physica D 6, 105-112 (1982).
[3] R. H. Cushman, D. A. Sadovski\'{i}, Monodromy in the hydrogen atom in crossed fields, Physica D 142, 166-196 (2000).