Colloquium

微分幾何におけるパリティと電磁気学

谷村 省吾

6月11日(金) 13時30分

電磁気学におけるパリティ(parity, 空間反転)の定義と,物質中の電磁気的諸量の定義に関してはいまだに混乱・議論がある. 二つはいちおう別々の問題なのだが,物質中の電磁場を扱うときは,両方いっぺんに問題になるので,混乱に拍車がかかる. パリティ変換を受ける物理量を代数的に記述する方法としてシュワルツ(L. Schwartz)とドラム(de Rham)が導入したツイスト微分形式(twisted differential form)があり,その幾何学的描像としてファラデイ・スハウテン図形(Fadaday-Schouten pictogram)があるが,ツイスト微分形式に双対な概念としてツイスト鎖(twisted chain)ないし横断的に向き付けられた鎖(transversally-oriented chain)というものを提案する(ドラムの本をよく読むと「奇チェイン」という用語があるが,たぶんこれと同じことを言っていると思う). これとドラムのカレント(current)の概念を組み合わせれば,電磁気学の定式化が見通しよくできそうである.

参考文献
[1] J. A. Schouten, "Tensor analysis for physicists", (Clarendon Press, 1951), (2nd ed. Oxford, 1954).
[2] L. シュヴァルツ(小島順 訳)「解析学 5 — 外微分法」(東京図書, 1971).
[3] ド・ラーム(高橋恒郎 訳)「微分多様体 — 微分形式・カレント・調和形式」(東京図書, 1974).
[4] 小島順「量の計算と線形代数」1977年7月号;「量の計算を見直す」数学セミナー1977年8月号から1978年1月号にかけて連載.
[5] F. W. Hehl and Y. N. Obukhov, "Foundations of classical electrodynamics: charge, flux, and metric", (Birkh{\"a}user, 2003).
[6] 北野正雄「マクスウェル方程式 — 電磁気学のよりよい理解のために」(サイエンス社, 2005), (新版, 2009).