Colloquium

ポート・ハミルトン形式での制御

佐藤 一宏

5月22日(金) 13時30分

ロボットハンドの研究において, 物体のつかむ場所をあらかじめ決めないで, 実 際に動かしてつかむという研究は21 世紀になってから始まったものであり, 文献の 数は少ない. さらに, 考案されているモデルは発表者が知る限り, 全てラグランジュ 形式で表現されている.
 そこで, 本研究ではディラック構造から導出されたポート・ハミルトン形式でモ デル化される制御系を考えた. 従来のモデルでは制御則を決めることで系のエネ ルギーを確定し, そこからリヤプノフの安定性定理などを利用して平衡点が漸近安 定かどうかを調べていた. 本研究で扱ったモデルでは, 元の系が持つエネルギーに さらにポテンシャルが加えられて, 全エネルギーがリヤプノフ関数となるように変 換される. その結果, そのポテンシャルと, ある条件を満たすように定めた関数か ら自動的に制御則が決定する.
 発表者は昨年度の特別研究において, 指と物体との間に転がり接触によるホロ ノーム拘束のある制御モデルをポート・ハミルトン形式で表現することで, 従来 とは異なる制御則を得た. しかし, その方法は, 拘束条件を考慮した共役変数を考え る際に生じる行列が任意性を含むことによって, 扱っている対象ごとに, その行列 を制御系の設計者が考えなければならないという不便があった. そこで, その不便 を解決するために, ハミルトニアンが確定でき, 指と物体との接触の際の速度拘束 を導出できるすべての制御系に適用可能なアルゴリズムを考案した. 従来は対象 としている物体ごとに制御則を試行錯誤で考えていたのに対して, このアルゴリズ ムを用いることで, 制御系のハミルトニアンを与え, 速度拘束を導出しただけで制 御則が自動的に決まることになる. 考案したアルゴリズムの有効性を確認するた めに, 特別研究で扱った問題に対して数値実験を行ったところ, 良好な結果を得た.
 今回は, 考案したアルゴリズムがどのようなものであるかということと, 数値実 験から分かったことを中心に発表する.

参考文献:
[1] K. Fujimoto, T. Sugie. Canonical transformation and stabilization of generalized Hamiltonian systems,1999.

[2] K. Fujimoto, K. Ishikawa and T. Sugie. Stabilization of a class of Hamiltonian systems with nonholonomic constraints and its experimental evaluation, Proceedings of the 38th IEEE Conference on Decision and Control (CDC99), Phoenix, USA, pp.3478-3483, 1999.12

[3] 有本卓. 数学は工学の期待に応えられるのか. 岩波書店,2004.ISBN:4-00-005526-7.

[4] A.J. van der Schaft, B.M. Maschke.On the Hamiltonian formulation of nonholonomic mechanical systems. Rep. Math. Phys. 34 , pp.225-233, 1994.

[5] C. Secchi, S. Stramigioli, C. Fantuzzi. Control of Interactive Robotic Interfaces. A Port-Hamiltonian Approach. Springer Tracts in Advanced Robotics Volume 29, 2006. ISBN:978-3-540-49712-7.

[6] R. M. Murray, Z. Li, S. S. Sastry. A Mathematical Introduction to ROBOTIC MANIPULATION. CRC Press, 1994. ISBN:0-8943-7981-4.

[7] S. Stramigioli. Modeling and IPC Control of Interactive Mechanical Systems: A Coordinate-free Approach. Lecture Notes in Control and Information Sciences 266. Springer, 2001. ISBN:1-85233-395-2.

[8] A.J. van der Schaft. L2-Gain and Passivity Techniques in Nonlinear Control. Springer, 1999. ISBN:1-85233-073-2.

[9] M. W. Hirsch, S. Smale, R. L. Devaney. 桐木, 三波, 谷川, 辻井訳. 力学系入門-微分方程式からカオスまで-(原著第2 版). 共立出版, 2007. ISBN:4320018478