Colloquium

液晶の数理

谷村 省吾

5月16日(金) 13時30分

液晶は、棒状ないし板状の形を持つ分子の集団が示す秩序状態の一種であり、 分子の重心の位置はランダムに分布し時間的にも変動しているが、 分子の向きはそろっているような状態である。 流動性を持った液体でありながら、 電磁気的性質に関しては複屈折など固体結晶に似た異方性を示すため、 液体と固体の中間的な状態を意味する「液晶(liquid crystal)」の名が付けられ ている。 その電気的・光学的特性ゆえに今日では液晶はディスプレイの材料として多用さ れている。 棒状分子は1軸周りの回転対称性を持っており、 単純なネマチック相は棒状分子の向きがそろっている状態である。 棒状でなく長方形の分子は、回転対称性を持たず、2軸異方性分子と呼ばれる。 長方形様あるいはバナナ型の分子からなる系において、 辺の向きがそろった2軸性秩序相が出現し得ることは、1970年にFreiserが予測し ていたが、 2軸性秩序相への熱的な相転移が実験的に確認されたのは2004年のことである。 それ以来、2軸性ネマチック相は研究者たちの注目を集めている。 しかし、2軸性秩序構造の記述方法については、研究者らの間で若干の混乱があ り、 ランダウ・ドゥジャン自由エネルギーの定義式にも あり得るはずの項が抜け落ちているなどの不備が見られる。 そこで我々は、回転群の表現論にもとづいて、 任意の形の分子に対して2軸性秩序を記述するテンソル秩序変数の完全なセット を定義し、 ミクロな分子の異方性と、マクロな相の異方性とを系統的・定量的に比較する方 法を考案した。 また、秩序変数の不変多項式によって自由エネルギーを過不足なく定式化した。 これらの研究について紹介したい。

なお、本報告は香田智則氏(山形大学)との共同研究にもとづく。

参考文献:群論入門(第3回:相転移と秩序変数)

http://yang.amp.i.kyoto-u.ac.jp/~tanimura/class.html

論文:Characterization of Geometric Structures of Biaxial Nematic Phases

http://xxx.yukawa.kyoto-u.ac.jp/abs/0805.2471