Colloquium

Lie代数のCasimir演算子により構成される量子力学系の解析

妹尾 雄介

1月11日(金) 13時30分

多原子分子の振動状態に対するエネルギースペクトルの構造は一般に非常に複雑であり、ハミルトニアンを厳密に表してエネルギー準位を求めることは一般に非常に困難である。この問題に対して Iachello や Levine らは、ボソンの生成・消滅演算子で Lie 代数をつくり、Lie 代数とその部分代数の Casimir 演算子でハミルトニアンを構成する「代数理論」を構築し、比較的容易にエネルギー準位の帰属をつけることができる、ということを示した[1]。

このモデルは系の自由度よりも多くの生成・消滅演算子の組を用意し、系の自由度より大きい次数の Lie 代数をつくることにより構成される。このようにしてモデル化された系が実際の量子力学系とはどのような関係があるのか、また「自由度を増やす」という操作にどのような意味があるのかは興味のあるところである。

そして代数的に構成されたハミルトニアンは、その構成の仕方から系に対してはじめから何らかの対称性を仮定していることになり、その対称性に関係する自由度を落とす、という操作が何らかの簡約、特に古典対応を考えた場合には Marsden-Weinstein 簡約と関連しているということが期待される。

特に1自由度系を記述する $su(2) \supset so(2)$ の列からつくられる系を考えると、2次元調和振動子から1次元 Morse 振動子[2]を導くことができるが、今回の発表ではその手続きが簡約化という観点においていくらかの問題をはらんでいることを述べる。

参考文献
[1] F. Iachello and R. D. Levine, ``Algebraic Theory of Molecules'',Oxford Press (1995)
[2] P. M. Morse, ``Diatomic molecules according to the wave mechanics. ii. vibrational levels'', Phys. Rev., 34, p.57--64 (1929)