Colloquium

生体分子系の分子動力学シミュレーションと
静電相互作用の計算法について

米谷 佳晃(日本原子力研究開発機構)

7月12日(木) 13時30分

生体系の分子動力学シミュレーションにおいて静電相互作用の扱いは古くから問題に なってきた[1]。静電力が距離の−1乗に比例し、収束が遅いことが原因である。その ため、計算の際に、何らかの仮定を導入しなければならず、これまで計算対象や計算 資源に応じてカットオフ、エワルド、多極子展開などの様々な方法[2]が適用されてき た。最も単純なカットオフ法では、粒子間距離がある範囲内にある場合のみ相互作用 を計算し、それ以上の距離の相互作用は無視する。このときカットオフ長が長いほ ど、結果は正しいものに近づくと信じられてきた。例えば、水中のタンパク質の構造 を安定化させるには、9〜12Å程度では不十分で、18Å程度必要であるといわれてき た。今回バルク水の分子動力学シミュレーションを行い、カットオフ長についてのテ ストをやり直したところ、これまでの認識に反して、カットオフ長を長くするとシミ ュレーション結果は悪くなることがわかってきた[3, 4]。

[1] C. Sagui and T. A. Darden, Annu. Rev. Biophys. Biomol. Struct. 28, 155 (1999); R. M. Levy and E. Gallicchio, Annu. Rev. Phys. Chem. 49, 531 (1998); J. Norberg and L. Nilsson, Q. Rev. Biophys. 36, 253 (2003).
[2] M.P. Allen, D.J. Tildesley, Computer Simulation of Liquids (Oxford 1987); D. Frenkel, B. Smit, Understanding Molecular Simulation (Academic Press 2002).
[3] Y. Yonetani, Chem. Phys. Lett. 406, 49 (2005); J. Chem. Phys. 124, 204501 (2006).
[4] D. van der Spoel, P.J. van Maaren, J. Chem. Theory Comput. 2, 1 (2006)