Colloquium

周期駆動された双安定系における不安定周期軌道の制御法
〜潜伏期の影響について〜

山本 涼

4月21日(金) 13時30分

熱平衡状態に近い状態を保ちながら弱い外力を加えたときの系の応答は、線形応 答理論として研究がなされてきた.一方、強い外力を加えた時の応答については、 そのような統一的な記述はなく、個別に研究が行われている.その中でも対称性の 破れという観点は平衡・非平衡を問わず興味深い切り口を与えてくれる.

近年興味を持たれている動的相転移現象では、対称性の破れという概念が重要 な役割を果たしている.本研究では動的相転移の基礎的なモデルを用い、対称性の 破れの制御について考察している.

強磁性体に周期的に変動する強い外磁場を加えることにより、磁化は時間的に大 きく変化する.特に、十分強い磁場強度を一定に保ちながら振動磁場の角振動数を しだいに大きくしていくと、全磁化の分布が一山(対称性の破れた状態)から二山 (対称性のある状態)に転移する現象が実験やモンテカルロ法を用いた数値計算に おいて確認されている. 同様に振動磁場の角振動数を一定に保ちつつ磁場強度をしだいに強くしていくと、 全磁化の分布が二山から一山へと転移する.このように磁場強度と角振動数を変え ることにより、対称性の破れた状態(SBO:Symmetry Breaking Oscillation)と 対称性のある状態(SRO:Symmetry Restoring Oscillation)との間で転移を起 こし、これを動的相転移と呼んでいる.

カオスアトラクターに埋め込まれた任意の周期軌道を安定化させる方法として Pyragasによって時間遅れフィードバックが最初に考案された.これは現在 Pyragas法と呼ばれている. 以後、電気電子工学や機械工学の分野では勿論、化学や生物工学の分野においても 時間遅れフィードバックは盛んに研究がされている.

本論では最初に述べた動的相転移における不安定状態を制御するための方法として、 時間遅れフィードバック法について理論的考察を行っている.