Colloquim

Biot-Savart 作用素と Hodge 分解

小野 聡一郎

4月16日(金) 13時30分

電磁気学における Biot-Savart の法則は、与えられた電流分布から、 空間全体における磁束密度の場を求める方法を与えるものである。 この法則の数学的な形式に着目すると、与えられた「電流密度の場」を 「磁束密度の場」に写像する「Biot-Savart 作用素」を考えることがで きる。この Biot-Savart 作用素には、結び目理論、流体力学、プラズマ 物理などにおいて様々な応用があることが知られているが、これらの応 用に際しては Biot-Savart 作用素の数学的性質を詳しく調べることが 不可欠であろう。そのための有力な手段は、Hodge の分解定理によって ベクトル場がなす空間をいくつかの部分空間の直和に分けてしまうこと である。本発表では、Canterella, DeTurck, Gluck の論文に従い、この 定理を用いて、Biot-Savart 作用素がある連結コンパクト集合上の、 発散がなく境界上では境界と接するようなベクトル場全体のなす空間に おいて $\rot$ の右逆演算となることや、Biot-Savart 作用素の核は境 界上でポテンシャルが定数となる勾配ベクトル場全体の空間に一致する こと、また Biot-Savart 作用素の像のなす空間は $\rot$ の像のなす 空間の真の部分空間になること、さらには Biot-Savart 作用素は有界 対称作用素であって標準的な$L^2$内積のもとでベクトル場の空間を完 備化するとコンパクト自己共役作用素に自然に拡張されることを示す。

参考文献:
[1] Jason Cantarella, Dennis DeTurck and Herman Gluck,
"The Biot-Savart operator for application to knot theory, fluid dynamics, and plasma physics", J. Math. Phys., Vol. 42, No. 2, Feb. 2001.
[2] David J. Griffiths, "Introduction to electrodynamics", 2nd ed. (Prentice-Hall, New Jersey, 1989).
[3] Guenter Schwarz, "Hodge Decomposition: A Method for Solving Boundary Value Problems", Lecture Notes in Mathematics, No. 1607 (Springer-Verlag, Berlin, 1995).
[4] Robert J. Zimmer, "Essential results of functional analysis", University of Chicago Press, c1990 (Chicago lectures in mathematics).

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