Colloquim

化学反応の「揺らぐ」世界における力学的決定性

小松崎民樹氏(神戸大理)

1月18日(木)13:30

3F北演習室

化学反応とは、ある系が環境(熱浴)から何らかの形でエネルギーを獲得し て励起し、ある安定状態(反応系)から別の安定状態(生成系)へ変化するプ ロセス全般を指し、必ずしも化学結合の解離生成に限定する必要はない。其れ 故、化学反応を問うことは「状態が変わる」ことの根幹を問うことを意味する。 現実の化学反応系は大自由度非線形系であり、反応の「前」と「後」の中間 にあるポテンシャル面上の峠(=遷移状態)を越えるエネルギー域では非線形 性は充分発達しているため、反応のダイナミックスは一般に「完全に発達した カオス」を呈する``熱的''な過程として捉えられてきた。 本講演では、カオス力学系の理論であるリ─正準変換摂動理論を化学反応に 対し展開し、「系に依らず普遍的に」遷移状態領域には反応方向の運動の規則 性に関して階層構造が存在すること:(峠の高さよりも高い)広範囲なエネル ギー領域に渡って、殆んどすべての自由度は互いに結合し高次元カオスを呈す るのに対し、相空間上の反応方向の自由度は有意な距離に渡って他のモードか ら分離し独立に振る舞っていること、従って、実際の遷移はカオスのなかに潜 む規則的経路を辿っているため、「反応(=状態が変わること)の決定性」を 問い直す必要性があること、を示す。また、本講演ではこれまであまり着目さ れてこなかったリ─正準変換摂動理論が与える座標描像の重要性を指摘したい。

参考資料: 小松崎民樹、物性研究 「化学反応の「揺らぐ」世界における力学的決定性 ─70年来の非再交差仮説の解決─」3月以降(2001)44pages. 戻る